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コラム

「覆面馬主の真実」【第38話】~リアルタイム進行型・競馬狂小説~

覆面馬主の真実
とある日、ロンドンで、チャールズ皇太子の友人でもある一人の大富豪が地下鉄に飛び込んで自殺した。その同じ日、テムズ川に身を投げた女性がいた。女性は、錯乱状態になり溺れかかっていた。川は、多くの船が行き来して大変危険な状態だったという。それを見た、ある男性が危険を顧みず川に飛び込み、女性を無事救出。テレビのインタビューに応じたその男性は、文無しのホームレスだったという。
「自分の身を危険にさらしてまで、何故川に飛び込んだのですか?」と尋ねられた彼は、こう答えた。
「人生は、おおいに意義があり、生きる価値がある。それを自分で放棄するなんて、絶対にしてはならないですから。」 全てを手に入れた大富豪の男が、自らの人生に幕を下ろし、その同じ日に、どん底にいるホームレスの男が、自らの危険を顧みず奇跡の救出劇を演じた。

生きる価値とは、何か?
それは、自分が、今ここにいる喜びに他ならない・・・。
今、ここで何かを感じている、そんな感覚こそ生きる価値なのだ。

1990年12月23日。
それは、自分の半生で最も「その場所」に居られた事を神様に感謝した日だ。

その場所とは、中山競馬場である。

この日は、オグリキャップの引退レース、有馬記念当日だった。
中山は、どこもかしこも押しくらまんじゅうのような状態だった。
皆、オグリキャップのラストランを観に来ていた。

が、オレは、オグリキャップ以上に心を揺さぶられた、あの馬に別れを告げようという想いの方が強かった。

その馬とは、イナリワンである。

実はこの日の昼休みに、イナリワンの引退式があったのだった。

オグリキャップよりも好きだったイナリワンの引退式に、静かに興奮していたのだった。
元々小柄な馬で、全身がバネで出来てるような馬。
ディープインパクトは、イナリワンに似ている。
その彼が、相変わらずのバネで歩いてきた。
その歩様を眺めていると、あの天皇賞をレコード勝ちした時の興奮が蘇った。
そして、ちょうど一年前に、この場所で観た有馬記念の壮絶な勝利を想いだしていた。

彼の父は、ミルジョージ。
ノーザンテーストを抜いて、一時、リーディングサイアーにも輝いたが、その後この血統は敗れ去りつつある。
もちろん、イナリワンも種牡馬となったが、その仔達が父を超える事はなかった。

完全に引退した後も、イナリワンは、ひっそりと、しかし力強く生き続けた。

同じ世代の勇者たちが次々に亡くなっていくのを見つめ、自分の血脈が敗れ去っていくのを見つめながら。

今月7日、イナリワンは、北海道占冠村のけい養先で老衰のため死亡した。
32歳、大往生だった。
彼の目に、今の競馬の世界はどのように映っていたのだろうか・・?

最後の最後まで、「今」を生き続けたイナリワン、冥福を祈る。

ありがとう!イナリワン!

それ以外に、言葉はない。

続く。





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