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コラム

「覆面馬主の真実」【第60話】~リアルタイム進行型・競馬狂小説~

覆面馬主の真実
「オークスの想い出~1~」

オレが初めて、オークスいや優駿牝馬の激烈な熱気にさらされたのは、今から31年前。

曇天の東京競馬場に足を踏み入れると、そこでオレは、何とも言えない邪気を感じた。邪気という言葉が脳裏に浮かぶほどのこの嫌な感覚は、一体なんだろう?と思った記憶がある。
嫌らしいまでの金銭への欲望、それも自分だけ儲かりたいという我慾が、この競馬場に集まった人々の身体から染み出て、競馬場の空気を淀ませていたからだろうか?

かくいうオレも、もらったばかりの初任給と大学時代にバイトで貯めた有り金を握りしめその地に立っていたのだった。オレの身体からも、オレだけ勝ちたいという邪悪な我慾がにじみ出ていたかもしれない。 当時付き合っていた彼女が同行していたのだが、オレの事をこんな風に言っていた。

「なんか変だよ、今日。どうしたの?」
「顔が怖いよ。」
「いつものギャグがゼロだよ。」

当時の優駿牝馬は、今では考えられないが、28頭立てだった。
5枠より外の枠には、一つの枠に4頭もの馬が入っていた。
馬連の発売はなく、枠連、単勝、複勝だけだったから、単勝を的中させるには、28分の1というとんでもない確率だったのだ。

オレは、右も左も分からないまま、東京競馬場のパドックそばの片隅でずっと競馬新聞とにらめっこしていた。彼女が一緒にいたのに、楽しめずオークスの事で頭がいっぱいだった。

その時、ふと目についたのが、「ノアノハコブネ」という馬名。
面白い名前をつけるな~。
哲学科に通い、聖書の勉強も好きだったオレは、この馬名に妙に惹かれた。

旧約聖書の「ノアの方舟」伝説をそのまま馬名にするなんて・・。
それは、こんな話だ。
人類が自らの欲望にまみれて戦争をやめないことに激怒した神様が、すべてを呑み込む大洪水を起こして、人類が築いてきた富や文明を一度リセットしようと思い立つ。そして、ノアという清く純粋な男に、一艘の方舟を造るよう命じ、その方舟に様々な動物のひとつがいだけを選んで乗り込ませ、世界を再構築しようとしたのである。

こんな話を彼女にすると、とても面白がってくれたのを憶えている。

いよいよゲートが開く瞬間が近づいてきた。
桜花賞を制したエルプスがここも勝ってしまうのだろうか?逃げ切ってしまうのだろうか?
しかし、この日、東京競馬場には、とんでもない大洪水が起こったのだった。

その中をすいすいとゴールしたのは、28頭中で21番人気だったノアノハコブネだったのである。

ノアノハコブネが、ゴールした瞬間、オレは何度も叫んでいた。

え~~~、え~~~、え~~~!ウソだろ。

こんな事ってあるんだ・・。

単勝6270円、複勝1550円。
枠連は、2610円。

もちろん、オレは、有り金をすって馬券は全て紙くずとなっていた。
しばらく呆然としていると、彼女が、自分で買った馬券をオレに見せた。

「ねえねえ、これ、当たったよね?」

な、な、なんと、ノアノハコブネの単勝と複勝を、1000円ずつ買っていたのだった。
くうう、邪悪なオレ達は大洪水の呑み込まれてしまったのに・・。

何も考えてない清らかな彼女に、勝利の女神は微笑んだのだった。

この日、彼女に晩飯をご馳走になりながら、馬券に上手い下手はない。絶対もない、何が起こるか分からない、と思うようになった。

しかし結局のところ、あの日以来、オレは大洪水に呑まれ続け、もがき続けている。
が、それが楽しいのだ・・。

つづく。





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